真剣な眼差しで馬の祭りを眺める姿
小さな手でぎゅっと母の指を握ったまま、人混みを歩いてた。年に一度だけ開かれる、東京都内の馬の祭り。
それは祖父がまだ元気だった頃から、毎年欠かさず連れて行ってくれる特別な日。
まだ太陽が落ちきらない夕暮れ、オレンジに染まる空、木製柵の向こうから、パカパカとリズムよく蹄の音が聞こえてくる。
東京都内の馬の祭りは、立派に飾られ、それを導く人達は真剣な眼差し。「今年主役は緊張してんかね?」母がつぶやく。
確かに一頭白毛が、少し足取りを迷う感じ。隣に並ぶ黒毛が近づき、鼻先を軽く寄せる。まるで励ますように見え、不思議と涙が浮かんだ。
白い姿がまるで、自分みたいに思えた。新しい学校、新しい友達、期待よりも不安が大きかった4月。
けれど今日ここで、勇敢に歩く彼らを眺め、わずかだけ前に踏み出せそうな気に。東京都内の馬の祭りは、静かに心へ火を灯してくれる。
豪華でも華やかでもないけれど、そこには確かな強さと優しさがある。ふと手を包むぬくもりも、そんな気がするから安心。
無事に終わった帰り道、次も来たいとつぶやき、小さな約束をする。